「ひらパー」の愛称で親しまれる大阪の人気テーマパーク「ひらかたパーク」に、円形ボートで激流を下る「トロールパニック パチャンガ」というアトラクションがあります。「激流を発生させる水中ポンプを新しいものに置き換えたい」。そんな相談が新明和に寄せられたのは2018年のこと。公共インフラ向けのポンプ製造が主だった同社にとって前例のない案件に、技術者の“魂”と営業の“熱意”で挑みました。
流体事業部
営業部門
関東支店 営業グループ
I.T.
当時入社23年目
流体事業部
小野工場
設計部 開発グループ
O.T.
当時入社19年目
数あるメーカーの中から選んでくれたお客様の思いに応えたい

パチャンガの設備は海外の遊戯施設メーカーが管理運営しており、水流を発生させるポンプにも海外製のものが使われていました。そのためメンテナンスや部品交換の手間とコストに悩んできた経緯があり、老朽化に伴う更新を機に「国産のポンプに置き換えたい」という相談が寄せられました。それまで下水道施設など公共インフラ向けのポンプを主に製造してきた当社にとって、このような大規模な遊戯施設からのご依頼は初めてでした。

公共インフラ向けのポンプは歴史も長く、幅広いオーダーにお応えできる製品ラインアップを揃えています。しかし、パチャンガのポンプは据え付ける場所の形状やサイズに制約があり、お客様が要望される仕様に応えようとすると重量もサイズもオーバーしてしまう、という問題がありました。そのため、既存の製品ラインアップにはないポンプを新たに開発しなければ、このご依頼にはお応えできませんでした。
そのため、当初は製造を担う工場も対応に苦慮しており、なかなか開発が進みませんでした。私は営業として何とかプロジェクトを前に進めようとチームを鼓舞していました。というのも、この案件に対してはお客様にも熱い思いがあり、数あるポンプメーカーの中から新明和を信頼して声をかけてくださったので、営業としては何としても成功させたい気持ちがあったからです。
「できるのか?」を「できる」に変えた営業の熱意

まず、設置場所の条件に合わせてポンプを小型化、軽量化することが課題でした。そのためには、出力は変えずに高回転のモーターの採用、および高回転時に要求性能を満足させる羽根車等の流体設計が必要になりました。それを当時のノウハウと経験で実現するのは難しく、なかなか突破口が見えませんでした。

前例のない製品を開発するのは何もかもが手探りで「何が問題なのか」すら最初はわかりません。そのため、なかなか進展が見られず不安な時期が続きました。ただ、幸いなことに当時の設計部のスローガンが「挑戦」で、多くの設計メンバーが諦めずに試行錯誤を繰り返してくれました。そのため営業としても「負けてられない」と自分を奮い立たせていました。
ひとつの転機となったのが、現場を調査させていただく機会を作ってくれたことです。調査できたことで不明点や曖昧な部分を解消することができました。営業が関係各所と交渉を重ねて実現してくれたことに感謝しています。
お客様や遊戯施設メーカーにかけ合って何とか実現しましたが、この調整はけっこう大変でしたね。でも「実物を見て技術的なヒントが得られれば停滞気味だった開発が前に進む」という期待があったので、あきらめずに交渉を続けることができました。
この機会があったお陰で、それまで「本当にできるのか?」と確信が持てなかった開発チームや工場も「できる」と前向きな姿勢になり、プロジェクトを前に進める大きな力になりましたね。
粘り強いトライ&エラーが生んだ新製法が突破口に

先述のとおり、このプロジェクトを実現するにはモーターの小型化、軽量化および要求性能を満足させる流体部が必要でした。そのためには、羽根車のブレード(羽根)をより薄くしてモーターの回転数を上げることが重要なポイントでした。しかし、ポンプの羽根車は鋳造で作るのが一般的で、鋳造では目標とする薄さにすることは難しい状況でした。

そこで開発チームの方では、切削による加工も検討してくれましたね。しかしポンプのサイズを考えると金属の塊から削り出すには時間も費用も膨大になってしまい、実現が難しいという結論になりました。お客様からのオーダーでは、最終的に4機のポンプを納入する予定だったため、もっと短期間かつ低コストの製法を検討する必要があったのです。
最終的にたどり着いたのが、ブレードとボスを別々に製作し、溶接する手法です。切削を検討する中で、改めてさまざまな加工法とコストを調べた結果、この手法ならコストを抑えられることがわかってきたのです。このような手法でポンプの羽根車を製造するのは、長い流体事業の歴史でも初の試みでした。
製造上の課題をクリアできたことで、何とかプロジェクトを完遂する目途が見えたのは本当にうれしかったですね。ここに至るまで、ご相談をいただいてから1年近く経っており、その間はずっと不安とプレッシャーを抱えていたので、諦めずに走り続けた甲斐がありました。
新たな加工法と新たなチームの関わり方で、広がる可能性
最終的な納品まで約1年半の長いプロジェクトでしたが、遊戯施設という新たな分野での実績ができたことは大きな意味があります。ひらかたパークさんと同様に設備の老朽化やメンテナンスの難しさに悩んでいる施設はたくさんあるので、今回のプロジェクトでそのような市場開拓の可能性も見えたと思います。
技術面では、同じ出力でより小型のポンプを作れるようになったので、それを既存の公共インフラ向けに横展開することも可能だと思います。また、新たな加工ノウハウが加わったため、これを応用すればより高性能なポンプの開発も可能です。
そうですね。近年は豪雨災害の規模が大きくなっているので、下水処理施設にも処理能力の向上が求められています。その点で、今回納品したような高効率ポンプを開発できたことは大きな意義があります。
通常、新製品を開発するチームと既存製品を製造するチームは分かれているのですが、このプロジェクトでは共同で開発する部分も多く、さらには検査や調達の部門も加わり、工場全体で新しい動き方ができました。その経験ができたのも良かったと思います。
物を作り上げていく中でたくさんの人が関わり、知恵を出し合って壁を乗り越える、という経験は本当に貴重ですね。そこに営業として加わり、プロジェクトに最後まで伴走できたことで個人的にも大きく成長できたと感じています。


実は納品後にプライベートでひらかたパークに行き、パチャンガに乗りました。「アトラクションを楽しもう」という気持ちと、「ちゃんと動くかな?」という不安な気持ちが半々だったのですが、問題なく動いているのを見て安心しました。この先も多くの人がパチャンガを楽しむこと、それを私たちの製品が支え続けることに誇りを感じた瞬間ですね。